社内恋愛のススメ
『プロポーズ』



言霊というものが、本当にあるのなら。

言葉に強い力が宿るのなら、私は確かにあの瞬間、地獄に落ちたのだと思う。





「ねぇ、有沢 実和さん。」

「………。」

「私、あなたが嫌いよ。大嫌い。仁さんの心を簡単に持っていってしまうあなたのことが、大嫌いよ。」

「地獄に落ちて。………2度と這い上がれないほど、遠くに消えて。」


文香さんは、私にそう言った。

キラキラと輝く涙を流して、恨みを込めて。


その言葉は強い力を持って、私を縛り上げていく。



地獄に落ちて。

2度と這い上がれないほど、遠くに消えて。


それほど、私は憎まれていた。

恨まれていたのだ。



知らない所で、違う人を傷付けていた。


文香さんの言葉の本当の意味を知ったのは、彼女が帰った直後。








「有沢、ちょっと来い!」


バタンと、会議室のドアを乱暴に開ける音。

慌てた部長の、叫び声にも似た言葉が降り注ぐ。


文香さんが帰っていった後の会議室は、驚くほどに静かで。

どうやら、私はぼんやりとしていたらしい。


部長の声で、肩が跳ねる。



「部長?」


突然聞こえた部長の声に、ただただ驚くばかり。


何が起こったのか。

どうして、部長がここに来たのか。


理解出来ずに、頭の中は混乱していた。



(文香さん、帰ったんだ………。)


嵐の様なひとときだった。


突然現れて、思いもしないことを言われて。

あっという間にいなくなってしまった。



美しい微笑みを浮かべて、狂おしいほどに自分の夫を愛しているあの人は。



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