溺れる月
海を見下ろす堤防の上に並んで腰掛けると、


「あたし、遠町雫です。多分、同い年だと思う。」



彼女は、そう自己紹介し、僕の方を向き直って言った。



「小田裕人君ですよね。今日は、いろいろありがとう。」


何で知ってるの。と訪ねると、


「同い年の男の子がいるって聞いたから、


カルテをこっそり見ちゃった」


と悪びれない様子で答えた後、


あ、でも大したものは見てないの。と付け足した。



「拒食症なの? 」


彼女が、あまりにも自然なトーンで聞くので、


面食らってしまい、


「そう言う訳じゃないけど…」


と言葉を濁してしまう。



「だけど、あんまり食べられない。」



そう言って雫の方を見ると、


一生懸命に包帯を外しているところだった。


さっき、せっかく傷を縫合して貰った所なのに。


驚いて、やめさせようとすると、


彼女は素早く包帯を巻き取り、


べりべりと血の付いたガーゼをはがすと、海に投げ捨てた。



「あーあ…」


驚き、呆然としている僕の目の前に、


まだ血が滲んでいる腕を突き出した。


「あたしは、切っちゃうんだぁ。


腕をたくさん。辛くなると何回も。」


僕は、思わず彼女の腕に見入ってしまった。


隙間が無いくらいにびっしりと引かれた、赤い線。


乾燥して茶色くなった物も、まだ、鮮やかな赤い物もある。


さっき縫ってもらった個所は、数えると18針の縫合があった。
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