溺れる月
月齢23

月齢23 裕人

 久しぶりに戻った東京は、


人が多すぎて酸素が薄い気がした。


緊張感からくるのか、


特急電車のトイレで何度も吐いた。




 宗太が、自殺を図った直接の原因を僕は大まかにしか知らない。


いや、知ろうとしなかった。



 宗太とは幼なじみで、小さな頃から友達というより、


兄弟のように育ってきた。


親同士も仲が良かったから、


小学校の頃は学校から帰るとどちらかの家で遊ぶことが多かった。



 中学二年になった頃、


宗太がクラス内でいじめられているという噂を聞いた。


僕らは、クラスこそ違うものの、仲はよかった。




宗太は、僕に悩みを打ち明けようとはしなかった。


だから、僕も今まで通り付き合ってやればいいんだと勝手に解釈していた。


宗太は明るい奴だったから、事態はそんなに深刻じゃないのかもしれない。


そんな風に思っていた。



 
 だけど、僕が思っていたより世界は残酷だった。


宗太は自殺を図る前の日に、


教室で殴られ、


けなされ、


最後はクラスのみんなが見守る中、


自慰行為をさせられたと聞いた。




 中学生にとって、いじめられることは


自分の全てを否定されているようなものだ。



学校に居場所が無い。



それがどれだけ辛いことなのか、僕は知っている。


宗太が、学校にいなくなってからの、


僕がそうだったからだ。



ただ、僕は自分から周りの人達を拒絶していたのだけれど。
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