溺れる月
それを聞いた雫が、


少し間を置くと叔母さんの顔を覗き込んで言った。



「可愛がってあげてね。」


「うん。」


「ぶったり、しないでね。」


「うん。」


「愛してあげてね。」


「うん。」


叔母さんは、雫の言葉の一つ一つに大きく頷くと、


雫を胸に抱きしめて泣き出した。


雫も、泣いていた。


僕も、目と鼻と耳の奥が痛くなった。


目頭が熱くなる。



泣きそうになっているのを悟られない様に、


一生懸命球根を植えた。



来年、この花が咲く頃、お腹の大きくなった叔母さんと、


雫と三人でまたこうやって笑っていたい。


そう思う。



僕は、雫と、ちゃんと生きて大人になる。



流れてきた涙を拭わないで、乾かそうと思った。


鼻水をすすると、秋の風も一緒に吸い込んだ様で鼻の奥がツンと痛かった。


「…のんびり行きましょう。」


何とはなしに呟いてみる。


上り始めた満月が、僕らのことを見下ろしていた。




(終)
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