キミの背中。~届け、ラスト一球~
第2章
不安の雨
長谷川さんに誘われて一度吹部に行ったけど、それ以来あたしは音楽室に行かなかった。
違う……行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだ。
吹けないんだもん。
経験者だから長谷川さんはあたしを吹部に誘ってくれたのに、受験の時に体調不良でうまくいかなかったからってそれだけの理由でトランペットを遠ざけた。
変なプライドを持ったせい。
どんな部活でも、レベルは高くなくても、素直に1年の時から入っていればこんなことにはならなかったのに。
実は、全く音が出ない……。なんて長谷川さんに言えなくて、あたしは逃げた。
逃げたってどうにもならないのに……。
「あ……」
吹部に行ってから3日たった朝、登校して靴箱で上履きに手を伸ばすと靴箱の中に一通の手紙が入っていた。
水色の雲柄の封筒の表に『新堂さんへ』、裏には『長谷川』と名前が書かれている。
「なに?手紙?」
一緒に登校した草太があたしの後ろから覗き込んでくる。
今日は朝から雨が降っていてふたりで歩いて登校したんだ。
おかげで、靴下が少し湿って気持ち悪い。
「あ、うん。長谷川さんからみたい」