花の名前
男の人が、車椅子を押して、あの家族は、海沿いを歩いて行ってしまった。


この浜辺で、あたしは一人きりになった。


海まで下りると、あたしはバッグからカッターを取り出して、おもむろに手首を切った。


今度は、この間より深く切ったようで、一度で、真っ赤な血が太い線になって流れた。


しゃがみこんで、海の中に付けると、鮮血が、水の中に一瞬だけ広がって消えた。


まるで、トモの描いた絵のようだった。


湖に映る青。


海に広がる赤。


その色がもっと見たくて、だんだんと傷口の幅を広げていった。


あまり痛みも感じずに、切ってしまった。


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