裏面ワールドトリップ
敵の足音が近付き、部屋の前を通り過ぎて行く。


私は息を殺して、彼らが遠ざかるのを待つ。


心臓が痛いくらい激しく脈打ち、口の中はカラカラに渇いている――




ようやく、辺りに静けさが戻った。


布団から目だけ出して、廊下の様子を窺う。


黒い輝きを放つ空間に、人の姿は無い。



「危なかった……」



長い溜め息と一緒に体中の力までが抜け、私はウイスキーの瓶を抱いたまま、しばし茫然とした。



間一髪。


信じられない幸運。



が、いつまでもこうしてはいられない。



――行かなきゃ。



私はぐったりした体を無理矢理奮い立たせると、こそこそと空室をあとにした。


また敵の兵士が現れたら、と思うと足がすくんだが、それでも再び黒水晶の廊下を進む。


いつでも隠れられるように空き部屋の位置を把握しながら、今までより一層注意深く、私は先を急いだ。
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