彼岸桜

淡い、桜色の帯揚げだった。
後にも、先にも、そんな贈り物をくれた人はいない。

そこまで思ったとき、秋の色をしたショールに絵をつけていた筆が止まり、静かな目がこちらを気遣うように見ていることに気付いた。秋色のショールには、小鳥とも動物ともつかない不思議な魅力を持ったものが静かにたたずんでいた。

「だいじょうぶ?」

と、年老いた絵付師は老女特有の少し高めの声で問うた。その目に、いつか見た彼の目が宿ってはいないだろうか?この眉も、この鼻筋も、この口元も、彼に似てはいないだろうか?

「あなた、」という絵付師の重ねた呼びかけに彼女はやっと我に返って、そうだ、ここは微笑む所だった、と思い出して微笑んだ。

「ええ、ええ、大丈夫です。これは、何の絵かしらと思って」

「そうねえ・・・。何なのかしらねえ・・・。何だか分からないのよ。そして、何でもいいのよ。最近はこんな、なんだか分からないけれど可愛らしい何かを描きたくなるのよ・・・」

老女は自分の描いた生物にもう一度目を落として筆を置いた。

「もう直ぐ、お彼岸ねえ」

老女は独り言のように言って、庭の萩の花を見つめているようだった。

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