無名な彼女と輝く彼と


そんな出来事から1ヶ月。

逃げようったって、ついつい目が彼が気になって彼のほうへ行くのだから、致し方無く目が合ってしまう。

合ってしまったあと逸らすのは少し気が引けたため、小さく会釈をしてから直ぐに人混みの中へと消えていた。

だから、彼の記憶からも私なんて薄れていったはず、だった。


「ね、俺のこと避けてるよね?」

「…へ、あ…高木くん」


手作りのお弁当を机から引っ張り出し、友人が待つ食堂へ向かおうとしたところで、がしりと腕を引っ張られた。

まただ。またこの目に映されている。


高木くんはなにを血迷ったか、私を引っ張りながら人気の無いところへと早足で向かっていた。
引っ張られている左腕が少し痛い。たぶん赤くなっちゃってるな。


「…名前、どうして教えてくれないんスか?」

「あ、と、知らなくても良いと思うよ?使うときなんてないと思うし…」

「使うよ…呼びたいんだもん…だって、俺あんたのこと好きだし」


目の前で彼の顔が赤に変わっていた。


「た、かぎくん?」

「…あ。嘘、冗談だよ!」


ぱたぱたと手を横にしながら、必死に説明する彼を見て、私にも赤が移った気がする。


「ねぇ、ねぇ、高木くん、」


嘘でも良いよ。冗談でも良いよ。
気づいてしまった気持ちは抑えられなさそうなんだ。もう一度、もう一度だけ。今度は私の名と共に。


「私の名前はね、」


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