ボレロ - 第二楽章 -

14. e エ (そして)  

 

知り合って間もないのに、まるで数年来の付き合いのような親しい笑みを浮

かべ、彼が二度目の確認をする。 



「また、会えますね」


「さきほども言いました。お約束はできません」


「運命が決めたことでも?」


「……もし、再会が運命なら……いつか、どこかでお会いするでしょうね」


「きっと会えるはずだ。僕は信じています」



拒むまもなく肩が引き寄せられ、頬へと軽い接吻があり、とたんにゲート向こう

から黄色い悲鳴があがった。

彼のファンだろうか、これ以上の接近は避けた方が良いと考え、私は二歩後ろ

へと下がった。

それと同じくして、携帯が帰国後初めての着信を告げた。



『リカルドからできるだけ離れて、早く!』


『どうしたんですか。どこにいらっしゃるの?』


『あなたの目の前ですよ』



到着ロビーに目を向けると、カメラを肩に掛けたまま携帯を耳に当てている

カメラマンの漆原さんが見え、

手を上げ私に居場所を教えてくれたが、その手はすぐに大きく振られ横へ行けと

合図があった。



『もっと離れて……そう そこでいい』


『漆原さんは、どうしてここへ? 取材かなにか』


『説明はあとでします。5分ほどそこにいて、それから急いで出てきて

ください。いいですね』


『困ります。こんなところに立ち止まったままなんて』
 

『珠貴さん、マスコミに追いかけられたくなかったら、そこを動かない!』


『わっ……わかりました』


『彼の来日の騒ぎにまぎれて出てきてください。到着ゲートを出て右に

曲がったら真っ直ぐ歩いて、できるだけ速く』



長旅を終えて、やっとゆっくり過ごせると思ったのもつかの間、私には一息

つく暇もないらしい。

事情が飲み込めないまま、漆原さんに言われたとおりに身を潜めていたが、

到着ロビーの歓声が大きくなった頃を見計らい、顔を隠すようにして到着ゲート

をすり抜け、ロビーを右へと折れた。

真っ直ぐ歩くように言われたものの 「どこへ向かえばいいのよ」 と独り言

がでたと同時に、後ろから近づいた影が私のトランクを引き取った。



「このまま進んで」


「迎えに来てくれたのね。宗……」


「前を向いて」


「どうしたの?」


 
私の問いに答える前に、かかってきた電話に彼が応じる。

わかった……とだけ返事をすると、私の手をとって力強く引いた。



「走って! あのエレベーターに乗るんだ」



ぎゅっと握り締め先へと導く手は、私がよく知っている手だ。

大きくて、何もかも包み込んでくれる。 

この手に任せておけば大丈夫……

それまでの不安が安心へと変わり、私は懸命に走った。



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