ストロベリーショートケーキ
ずんずん、そんな擬音がつきそうな勢いで、佐倉は校内を進んでいく。

そしてたどり着いた先は、保健室だった。



「佐倉……?」

「………」



俺の呼びかけには、うつむいて返事をしないまま。

彼女は迷うことなく、スライド式のドアを開いた。

そして俺を連れたまま中に入ると、ようやくそこで、佐倉は口を開いた。



「……花井くん、右手、ケガしてる」

「え? ……ああ、」



安達に肩を掴まれて、窓に身体を打ったときに引っかけでもしたのだろうか。

見るとたしかに、右手の人差し指から少しだけ血が出ていた。



「手当て、するから。花井くんそこ座ってて」

「あ、ああ」



相変わらず表情はよく見えないものの、彼女に指示されて、俺は言うとおりそばにあった丸椅子に腰かけた。

養護教諭は、どうやら不在らしい。彼女はまっすぐに壁際の棚へと近づくと、引き出しを探ったりガラス戸をスライドさせたりしている。

その慣れた様子に、そういえば彼女は1年の頃保健委員だったと、そう話していたことを思い出した。


そうして再びこちらを振り返った佐倉は、消毒液と絆創膏を手にしていて。

俺の向かい側に腰をおろし、テーブルの上のピンセットと脱脂綿も使って、傷を消毒していく。



「………」

「………」



その間、うつむきがちな彼女の表情は何も見えず、かといって会話があるわけでもなく。

なんとも重い雰囲気の中を、エタノールの香りが漂った。

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