きみと泳ぐ、夏色の明日

***


「ただいま」

学校が終わり家に着くと、すぐに晩ごはんのいい匂いがしてきた。


「おかえり、すず」

台所に立つお母さんはエプロン姿で、どうやらカレーを作ってるみたい。


「今日仕事だったんでしょ?晩ごはんぐらい私が作るのに」

いつもそう言うけど、実際に料理はあまり得意じゃない。それを知ってるお母さんはパートがある日も家事をおろそかにすることはない。


「今日お父さん遅いんだって。だから先に食べよう」

テーブルに出されたカレーとサラダ。私はいつも座っている定位置に腰を下ろした。


椅子は四脚。お父さんとお母さんと私。

そしてもうひとつは4年前から空席のまま。


「ねえ、お母さん」

「ん?」

真向かいに座るお母さんに問いかけたけど、喉が詰まって言葉がうまく出てこない。


「ううん。なんでもない」

カレーと一緒に言いたいことを飲みこんだ。


他の人から見ればごく普通の家庭でとても幸せな家族。

だけどこの光景が幸せであればあるほど、私は苦しい。

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