後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 カフェで働いている時だって、化粧なんて必要としたことはなかった。

「ここは女の戦場だからな、化粧は必須だ――ゴンゾルフ、どうにかならないか?」
「大丈夫、まかせて」

 おっさんに顔をまかせるのか――と思ったのだけれど、ゴンゾルフの方は慣れたものだ。メイク道具一式を机の引き出し――化粧道具常備かよっとアイラはこころの中でつっこんだ――アイラの顔にぺたぺたとクリームを塗り、粉をはたきあちこち色を載せていく。

「はい、終わり」

 鬘をかぶせられた時同様、目の前に鏡が突き出された。

「うわぁ……これは、……ひどい」

 化粧で女は化けると言うが、逆の意味にも使うことができるのだとアイラは初めて知った。

 顔色は悪く、青白くなっている。ぱっちりとして可愛らしかった目元は、瞼が重く見えるように色を塗られていた。唇も不健康そうに青ざめた色合いに塗られている。

 イヴェリンに渡された眼鏡をかけると、皇女エリーシャの影武者になれるかもしれない雰囲気は完全に消えた。不細工だ――あまりにも不細工すぎる。

「後でやり方教えるから、覚えてちょうだい」
「不細工メイクにもほどがありますって……」
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