後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 道をよく知っているのか、一応手綱を手にしているものの御する気配はなく、ケヴィンはちらりとアイラに視線を投げかける。

「前だったら、いいよって言ってあげられたんだけどな。最近、セシリー様に会いたいっていう連中の中に胡散臭い奴が増えてさ。この黄色い布を巻いていてもなかなか難しいんだよ……」
「……そんなっ……」

 イヴェリンはついに側に積んである荷物にすがりついて泣き伏してしまった。

「あー、大変なんですねぇ」

 とりあえず泣いているイヴェリンの背中をさすって慰めている様子を装いながら、アイラはケヴィンに同情して見せた。

「会わせてやれるなら、会わせてやりたいんだけどな。悪いことは言わないから、諦めた方がいい」

 ちっとハンカチの下から舌打ちが聞こえたような気がする。アイラはあわてて声を張り上げた。

「ああ、おじさん! そこの宿! そ、そこに泊まろうかな? 料理がおいしくて安いとこがいいんだけど、きっとそんなに高くないよね?」
「なんなら家に泊まってくれてもかまわないだよ」
「いーえぇ、こうなったら一晩中泣くのが目に見えてるもん。おじさんたちの安眠妨害するわけにもいかないから!」
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