後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「そうね、しょちゅう飲みに来てるから」
「しょっちゅう――?」
「うん、あの道使えばここまですぐでしょ」

 確かに皇女宮からここまでは、裏道から出れば近い。毎晩抜け出しているのかと思うとぞっとする。

 アイラの耳元でエリーシャは言った。

「リアルな市井の様子を知りたいのよ――一応、次期皇位継承者ですからね」

 遊びたいだけではないのだろうか――じろりと見たアイラは、エリーシャは無視すると決めたようだった。
 
「ああ、エリーシャ」

 三杯目のビールを運んできた店主が、エリーシャに声をかけた。

「さっきの女の子なあ、あんたにお礼を言いたいと言ってたぞ」
「別にいいのに。それじゃ、今度会ったらビールを一杯ご馳走してって言っといて」
「わかった、伝えておく」

 エリーシャが満足して店を出たのは、真夜中近くなろうかという頃だった。
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