手の中の肉球
第一章

初めての肉球

「お母さん、もっと新聞紙ない?」

「ちょっと待ってなさい。今、持ってくるから。」

「は~い♪」

私は、岡野麻美。中学2年の、14歳。これといった特徴はない。部活は吹奏楽部。トランペットを吹いているが、特に好きということでもない。


今日は、少し汗ばむ程の、晴れ渡った初夏の陽気の日曜日。地域の廃品回収だ。こういった地域の行事は、年寄りと小学生、中学生の役割だ。
面倒だけど、特に嫌いというわけでもない。
私は、特に反感も持たずに、素直に庭で廃品回収に出せそうな物を、母親と一緒にまとめていた。


そこらへんに乱雑に置かれた瓶やら缶やらを、一通りまとめた私は、ふうっと溜め息をつきながら腰を戻すと、もう空き家となっている庭の片隅にある犬小屋が、目に入ってきた。

もう、柴犬のチビが死んでから、どの位経つんだろう…。庭で遊んでいた2つ上の兄と私の目の前で、突然倒れて全部の足をバタバタさせると、そのままピクリとも動かなくなって、死んでしまった…。
なのに、幼かった私は、『死』というものを、ちゃんと理解出来ていなかった…。死んだというジョーダンしか出てこなく、兄と笑いながら母親に言いに行った。
勿論、母親は泣きじゃくりながら家の外に出てきたわけだけど…。

あの時の、母親の涙で、初めて幼心に『死』というものを知ったような気がした。

私は、あの時笑ってしまった自分を、未だに悔いている。チビは、いつも優しく家族を見守ってくれていたのに…。多分、この悔いは、一生忘れないんだろうと、心の隅で思いながら、庭の入口でもある、道路からの坂道に目が行った。

「…えっ?」

思わず、声を上げた…。
そこには、今まで全く無縁の訪問者が、迷わずこの家に向かってきたからだ。

その訪問者は、何か口に加えていた。それを入口の木の根元に置くと、ポカンと口を開けたままの私の目の前までやってきて、お上品に前足を揃えて座った。

「にゃ~。」

……。

…………。

………………猫?

「お母さ~ん!!猫~!!煮干し~!!」

私は無我夢中で叫んでいた。その時の声は、未だに私の中に残っている。
なにがなんだか分からない母親は、とりあえず煮干しをすぐに持ってきてくれた。それを、惜しみなく目の前で縋るような目をしている茶トラの猫に与えた。
茶トラの猫は、それを警戒することなく、食べていた。

それをしばらく眺めていたが、やっと落ち着いた私はふとさっき、木の下に隠した物が気になり、猫を刺激しないように、そっと移動し、覗いてみた。

………………猫!!?

「お母さん!こっちにも、猫がいる!!」

母親は全てを悟ったらしく、落ち着いた声で私に教えてくれた。

「子供を、この家に託しにきたんだよ。」

そう言いながら、母親同士、打ち解けているように見えた。
子供達は…、私は、根元からピーピー鳴いている、白と黒の目も開いていない子猫を、慣れない手つきで手に取り、母猫の元に持って行った。









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