ティーチ?
比較的ゆっくり、念を押すようにそう話すと。

それまでうつむきがちだった篠岡さんの表情が、みるみる明るくなって。

うれしそうに頬を紅潮させながら、彼女は大きくうなずいた。



「ありがとうございます、宮内先生!」

「……うん、どういたしまして」

「それじゃあ私、また改めて来ますね。先生、今日何かお仕事してたみたいだし……お時間とらせてしまって、すみませんでした」

「いえいえ、また今度ね」

「はい! それじゃあ、失礼します」



来たときよりも幾分明るい表情で、彼女は社会科準備室を後にして行った。

残された俺は、きっちりドアが閉まったことを見届けてから、脱力して思いきり目の前の机につっぷす。


──なんだあれ、あの表情は、反則じゃないか。

僕でよければ、と答えたときに篠岡さんが見せたはにかんだ笑顔を思い出し、俺は思わず片手で口元を覆う。



「……『また今度』、か……」



そのままの状態で小さく呟いた独り言は、誰に聞かれるでもなく室内の空気に消えて。

……なんか、変なことになっちゃったな。

俺は深々と、ため息を吐いた。
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