ティーチ?
"先生"と"生徒"
「それでね先生、今日の調理実習で作ったクッキーを持ってったら、先輩よろこんでくれて──」

「そっかそっか。女の子らしい手作りのお菓子をもらって、うれしくない男はそうそういないんじゃないかな」

「えへへーそうかなっ」



俺の言葉ににこにこと笑って、篠岡さんはまた一口持っていた紅茶を飲んだ。

俺もマグカップからコーヒーを飲む振りをしながら、人知れず小さく息を吐く。



《先生先生っ! 私ね、今日ね──》



そうやって彼女がうれしそうにこの社会科資料室に駆け込んできたあの日から、約2週間。

自分のすきな人とまずは友達になることに成功した篠岡さんは、今日まで順調に『鎌田先輩』との交友を深めているらしい。

彼女に好意を持っている俺としては、もちろん複雑な思いではあるんだけど。



《鎌田先輩、私が持ってたタオル受け取ってくれたんだぁ》



……でも、彼女があんまりうれしそうに笑って、先輩との話をするもんだから。

だから俺は、『やさしい社会科教師の宮内先生』として、心で思っていることは表に出さないように、努めて平常心で、彼女と向き合っている。
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