ティーチ?
「けど、なんで? 俺は一応教師なのに、なんでああやって、篠岡さんと近づけるようにしてくれたの?」



そう、そこは、教師と生徒という許されない間柄を自覚していれば、当然の疑問だ。

その問いかけに、彼女はあっさりと言葉を返す。



「だって沙知は、あたしの大事な友達だもん。正体不明のエセさわやかアイドル野郎にとられるよりは、教師だろうがなんだろうが、腹の内がわかってる身内の方が安全かと思って」

「あ、そう、そんな理由……」



いや、まあ、そんな理由だとは、思ったけど。

またもや肩を落とす俺に対し、彼女はずずっと紅茶をすすって。

それから今度は、さっきまでの黒い笑顔ではなくて、イタズラっぽい、年相応の笑みを浮かべた。



「それに──だってホタカにぃは、何がなんでも、沙知をしあわせにしてくれるでしょう?」

「──、」



その言葉に。一瞬俺は、目をまるくする。

だけどすぐに、自然と、口角が上がった。



「……うん、もちろん」



しっかり、目を見て頷いた俺に、満足げに微笑んで。

彼女はすっくと、椅子から立ち上がる。



「じゃあね、あたしもう帰るわ。紅茶ごちそうさまでした」

「あ、うん。おじさんとおばさんに、よろしくね」

「うん」



紅茶を入れていたカップとソーサーをテーブルに置き、1度ドアノブに手をかけかけた彼女は。

あ、と何か思い出したように、くるりとこちらを振り返った。

その顔には、やはり含みのある笑み。



「言い忘れてたけど……いくら沙知が鎌田先輩に失恋して、今ホタカにぃとイイ感じだからって──少なくとも、高校卒業までは手ー出しちゃダメだからね」

「は、」

「じゃあねー」



パタン。小さな音をたてて閉まったドアを、思わず間抜けな表情で見つめる。

……えっと。きっと篠岡さんは、きーちゃんには鎌田のことを報告していて。

だけども、俺とのキスのことは──おそらく俺の立場上もらすのはマズイと思ったのか、親友である彼女にも伏せていて。



「………」



真実が露呈したその暁には、俺は間違いなく、あの年下のいとこにグーでぶん殴られるんだろうなぁ。

そんな憂鬱なことを考えて、俺はまた、人知れずため息を吐いた。




2013/05/30
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