ティーチ?
聖職者のゆううつ
使い古したマグカップに淹れたばかりのコーヒーの香りが、鼻腔をくすぐる。

いつものように社会科準備室にこもって明日の授業の確認をしていると、コンコン、と控えめなノックの音が聞こえてきた。

また悩み多き思春期の生徒が相談に来たのかな、と思いつつ、俺は「はい」と返事をする。

──しかし次にドアの向こうから聞こえてきた声に、心臓が飛び出しそうになった。



「あ、あの……2Aの、篠岡です」



ああ、うん。2年A組の、篠岡さんね。

………は?! 篠岡?! ってあの篠岡?!


一瞬にして早鐘のように鳴りだした心臓のあたりを右手で軽くおさえつつ、俺は平常心を保とうと努力する。



「……どうぞ」



……声、震えてなかったかな。

かなりかっこ悪い心配をしながらも、なんでもないみたいに机に向かって作業を続けた。

カチャ、とやはり控えめに小さく音をたて、廊下とつながる出入口のドアが開く。
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