君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】

そう呟いたアイツの言葉に嬉しくなる私自身。

アイツは私を否定せずに受け止めてくれる。
昔も、今も……。




だから私も……アイツの秘密を知ったあの日から
心に決めたんだ。



『君(アイツ)を守る陰になりたい』ってさ。


アイツが尊夜君の陰になることを選んだ、そんな気がしたから。



「それで、今日は?
 昂燿にまだ戻らなくていいの?」



戻って欲しくなんてないのに、
本当に私は素直じゃない。



「あぁ、まだ戻る気はないよ。

 お前とはインターハイの時に約束しただろ。
 ケーキの食べ放題、クリスタルホテルの奴だろ。

 行くんだろ?」

「嘘っ……覚えててくれたんだ。

 でも……紀天、クリスタルホテルのケーキバイキングは予約が必要なんだよ。
 それに高いんだよ」

「別にそんなの構わねぇよ。
 予約もとれてるから、安心しろって。

 その代わり、ちょっと晃穂の時間オレに寄越せ」


真っ直ぐに見つめて伝えたアイツに、
またドキドキした。


だけどアイツはすぐに目を反らして、
窓の外を眺める。


アイツの照れてる証。



「うん。わかった。
 今日は、私の時間アンタの自由にしていいよ。

 行こう、クリスタルホテル。
 準備したら下に降りるから、リビングに居てよ」



そう言ってアイツを私の部屋から追い出すと、
あのお預けされたSHADEのLIVEの日に着られなかった
勝負服に再び身を包んで、慣れないメイクを頑張る。

メイクの後にひくのは、
ずっと躊躇ってたオレンジのルージュ。


鏡に映る私はいつもよりちょっとかっこ可愛く見えた。



よしっ。

今日は素直にならなきゃ。


気合を入れるように頬を両手でバシンと叩いて鞄を手にして部屋を出る。
階段を降りてると、リビングからアイツが顔を覗かせる。




「お待たせ」

「おっおぉ。晃穂、可愛いじゃん。
 ならおばさん、晃穂借りてきます」

「行ってらっしゃい」




お母さんに見送られて、玄関を出た途端玄関前の掃除をしてた、
咲空良さんにも「いってらっしゃい」っと声をかけられる。



そんな時間が今は凄く優しい。




だから今は……こんな時間を抱きしめていたいんだ。
ただアイツの傍で。


尊夜君を守ることに必死なアイツを、
私は一番近くで守っていきたい。




アイツが差し出した手を繋いで、
アイツの隣に寄り添うように、駅まで歩いていく。


履きなれないミュールも、
少しずつ慣れるように、アイツと私の関係もゆっくりと変化させられたらいいんだ。

焦らず、一歩ずつゆっくりと。





その日、紀天に連れて行かれた待ち望んだクリスタルホテル。
そこには一人の少年が同席していた。



< 106 / 245 >

この作品をシェア

pagetop