さよならの魔法



休み時間になると、茜はいつも俺の席までやってくる。


今みたいに、移動教室の前には声をかけてくれる。

昼休みには、一緒にご飯を食べようと誘ってくれる。


特に用事がなくても、何となく一緒にいる関係。



茜と付き合い始めて、2ヶ月。


男と女。

クラスメイトの枠を超えた付き合い方っていうのは、まだよく分からない。


でも、少しずつ慣れていくのかなと思う。



矢田みたいに、やたらと恋愛についてませてはいない。


きっと、恋愛ベタな俺。

焦れったいほどゆっくりのスピードでしか、俺はきっと前に進めない。



ごめんな、茜。


こんな俺を、疎ましく思う時もあるだろう。

茜の方が、俺よりも焦る気持ちを持っているのだろう。



手を繋ぐくらいしか、自分からは動けなくて。

キスをすることさえ、躊躇って。


付き合っているのに、どうしてそこまで考えてしまうのだろうと、自分でも不思議に思うほど。



大切にしてやりたいと思った気持ちに、嘘はない。

幸せにしてあげたいと思ったのも、本当のこと。


キスのその先は、まだいいや。

したいとさえ思わない俺は、病気なのだろうか。


こんなこと、茜には死んでも言えない。



「化学の授業って、私、好きなんだよね。」


ふと、茜がそう言う。



「どうして?」


俺がそう問い返せば、可愛らしい答えを返してくれる茜。



「だって、化学の授業って、ユウキの席に近いとこに座れるんだもん。」


茜がほんのり頬をピンク色に染めて、恥ずかしそうにそう呟く。



愛されてるって、感じる。

茜から寄せられる想いは、真夏日の太陽みたいだ。


熱くて。

心が丸ごと、焦がされていく様な感覚。



俺なんかの、どこがそんなにいいんだろう。

どこにでもいる中学生の俺の、どこをそんなに好きでいてくれるんだろう。


俺はそこまで、茜のことを想えているだろうか。



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