さよならの魔法



もっと別の形で、視線を合わせたかったよ。

紺野くんに見てもらいたかったよ。


願いは叶ったのに、残るのは虚しい気持ちだけで。



「ほらー、カードにも書いてあるよ?」


私が心を込めて書いたカードを広げて、わざとみんなに見せる磯崎さん。



「あー、1年生の頃から好きだったんだって。純愛だねー!」


ヘラヘラと笑いながら、磯崎さんが私の書いたカードを読み上げる。


私の想いが。

私の気持ちが、他人の口から伝えられていく。



もう限界だった。

もう無理だった。


それに耐えられるほど、私の心は強くなかったんだ。





「いや………。」


壊れる。

割れる。


心が。



「いやあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


生まれて初めてだった。


こんな大きな声を出したのは。

腹の底から、割れんばかりの声を出して叫んだのは。



涙が溢れる。

洪水の様に、溢れ出して止まらない。


涙で歪んだ視界には、ぼんやりとしか教室の景色が見えなかった。



ユラユラと揺れる景色の中で、楽しげに笑う磯崎さんの姿がうっすらと映る。


周りのクラスメイトは、今日も同じだ。

誰も、暴走する彼女を止めようとしない。


気まずそうに、視線を逸らすだけ。



教室の端には、紺野くんが立ったままでこちらを見ていることが分かる。

はっきり見えた時と同じ様に、ドアに手をかけて。


私の方を見ている。



きっと困ってるんだろう。

戸惑っているに違いない。


だって、私と紺野くんに接点なんてない。

2年間、同じクラスだった。


それだけの存在。



親しく話したこともなければ、同じグループになったこともない。

席が隣になったこともなければ、同じ日に日直を担当したこともない。


ほんとに、ただのクラスメイト。

一言二言、挨拶を交わしたことがあるだけの人。



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