さよならの魔法
『影』
side・ユウキ







厚い雲。

真っ黒な空。


梅雨入りしてから、青い空は俺の小さな世界から消えてしまった。



今日も、俺は見上げてる。


暗くくすんだ空を。

自分の心の中の様だと、嘲笑いながら。









3年に進級してから初めての席替えで、俺は窓際の席をゲットした。


窓際の列の1番後ろ。

運良くゲット出来たその席は、俺にとっては最高のポジションだ。



だって、そうだろ?


教壇からも遠い場所であるが為に、先生の監視の目からも逃れやすい。

端の席であるが故に、みんなから注目されることも少ない。



それに、何より、ここは空に1番近い。

空を眺めるのには、絶好の位置だ。


もちろん、空を眺めるのは授業中だが。




「えー、この公式を当てはめて、計算していくと…………」


黒板の前では、数学担当の先生が難解な公式を解説中だ。

教室中の視線は、黒板に集中している。


そんな中、俺だけが黒板から視線を外していた。

太めな体つきの先生から視線を逸らし、いつも通りに空を見上げていた。




梅雨時の空は、雲に覆われている。

雲は厚く濁っていて、その先なんて見えやしない。


厚い雲のその先には、何があるのだろう。



その先にあるのは、青い空なのか。

それとも、真っ黒な世界なのか。


先の見えないその様は、未来みたいだと思う。



輝く太陽が待っているのか。

永遠に続く闇が待っているだけなのか。


誰にも分からない。

誰にも見通せない。


そんなところが、よく似ていると思ってしまうのだ。




(ほんと、全然晴れないなー…………。)


前に青空を見たのは、何日前のことだったのだろう。

すっきりと晴れた空なんて、もう何日も見ていない気がする。


中年の脂が浮いた男性教師の話なんかよりも、空を見ている方がずっと楽しい。



どうしても、興味は他に向いてしまう。

別に、悪気はないのだけれど。


黒板に書かれた公式をサラサラとノートに綴って、再び見上げた空。



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