さよならの魔法
『視線』
side・ユウキ







夏休み。


短い夏が、俺の住む小さな町にやってきた。



強い陽射しを遮り、風に揺れる緑。

深緑の葉は、心なしか、春先よりも濃く目に映る。


山を抜ける風までも、熱気を帯びていく。


そんな夏の日、俺はある場所へと向かっていた。









遡ること、1時間前。

自分の部屋で、いつもの様にくつろぐ俺。


暑い。

あー、ほんと暑い。


口に出すことさえ面倒で、うだうだと寝転がる。



暑いとは思うけれども、実は、俺はそんなに夏という季節が嫌いじゃないのだ。


真夏の太陽の下、体を動かすのは最高に気持ちがいいし。

プールだって、この時期しか入れない。


ああ、夏なんだなって、体全てで感じられるのは嫌じゃない。



しかし、今年に限って言えば、そんなことは言っていられない。

悠長に、夏を楽しんでいる余裕はないのだ。


中学3年の夏。

受験生である今年の夏休みは、休みであって、休みではない。


自由なんて、ある様でないものなのだ。



唯一の楽しみだった部活も、夏休みを前にして引退してしまった。

意外と性に合っていた弓道部に、俺の居場所はない。


遊びたい。

思いきり、夏を楽しみたい。


そう心で望んでも、叶わないのが今年の夏。



家に籠もって、勉強に追われる毎日。

急かされて、前を見ろと言われる毎日。


そんな毎日に、息が詰まりそうで。

息継ぎさえ上手く出来なくて、呼吸も苦しくなる。



勉強に手を付ける気にもなれない。

友達と遊ぶことも許されない。


やる気も起きずにダラダラしていた俺に、ついに特大の雷が落とされた。





トントン。

軽いノックの音とともに、木製のドアが開く。


そこに立っていたのは、母さん。

普段は優しい母さんの顔が、怒りに溢れて歪んでいる。


ピクピクと眉毛を吊り上げながら、母さんは俺にこう聞いた。



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