さよならの魔法


「橋野、止めろよ。」


振り向いた橋野の顔色が、一瞬で変わる。

真っ赤になって怒っていた橋野が、顔を真っ青にして焦る。



「あ、こ、こ、紺野くん………!な、何でもないの!!」

「橋野………。」

「ほんとに………、何でもないの………。」


何もなかったみたいに、橋野がそう言う。


そう。

それは、言い訳にしか聞こえない。

一部始終を見ていた俺からしてみたら、言い訳にしか聞こえないものだった。



無関係の俺から見たって、ただ事ではないのが分かるというのに。


なあ、どうして。

どうして、そんな言い訳すんの?


何でもない。

橋野のその言葉が、安っぽく聞こえる。



「紺野くん………。」


目が合えば、橋野はほんのりと頬を染めていく。

さっきまでは顔を青くして焦っていたのに、今ではピンク色にうっすら頬を赤らめている。


俺が振り切った茜が、ここでようやく現れた。




「ユウキ、行こうよ?」


橋野をきつく睨み、俺にそう告げる茜。



他人のフリをして、俺の後ろに隠れていた茜。


関わりたくなかったのだろう。

自分は関係ないから、巻き込まれたくなかったのだ。


茜は。



皮肉だな。

今だけは、茜の考えが読めるよ。



どうして争っていたのかまで、俺は聞くつもりはない。

理由だって、知る気はない。


そこまで深く踏み入ることを許されるほど、俺はこの2人と親しくない。

それだけは、確かなことだから。



だけど、これだけは言える。


あんな風に無理に何かを成し遂げようとするのは、間違ってる。

それじゃ、あの女と同じだ。


あの磯崎と同じなんだよ。






どんなに大人しそうに見えても、別の一面を見せたりする。

どんなに仲が良かった過去があっても、仲違いをしたりする。


人間って、単純だけど複雑で。

簡単な様で、難しくて。


この世で1番、難解な生き物なのかもしれない。



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