さよならの魔法



運命か。


いや、違う。

赤い糸が男と繋がっているなんて、そんなのはごめんだ。



これは、腐れ縁ってヤツだ。

俺と矢田は、きっと太くて黒い糸で繋がっているに違いない。


高校まで、この男と一緒になるのか。


まあ、その前に、どっちも合格出来るとは限らないけれど。



「運命だね、運命!」


気持ち悪い言葉を吐く男の頭を、参考書入りの重たいバッグで殴ってやった。



「運命なんて、あってたまるか!!」

「はー?じゃあ、運命以外の何だって言うんだよ!?」

「俺、そういう趣味ないし。あっても、お前だけは絶対有り得ないから!」


俺がそう言えば、目の前の矢田が軽く笑う。



「はははっ、俺だって有り得ないわ。俺、お前と違って彼女いるもん。かーわいい彼女ちゃんがね!」

「あー、はいはい。お前が、ノーマルな男で良かったよ。」

「ごめんなー?いくらお前が迫ってきても、さすがの俺も断るわー。」


謝る必要なんてない。

こっちから願い下げだ。


その前に、誰が好き好んでお前に迫るんだよ。



しかし、矢田の登場は、いい意味で俺の緊張を解してくれた。

ガチガチに固まっていた体を、普通の状態に戻してくれたのだ。


矢田のバカっぽさも、たまには役に立つというもの。

そんなバカなところも、コイツをどうしてか嫌いになれない要因なのだけれど。



「でも、まあ、お前に会えて良かったよ。」


珍しく素直にそう言ってやれば、矢田が薄い気味悪い笑みを浮かべる。



「わ、紺野、お前………本気でそっち系の人!?」


………この野郎。

そんな訳ないだろうが。


もう、コイツは相手にしない。

コイツを相手にするくらいなら、今は英単語を1つでも多く覚える方が有意義だ。


やたらと絡んでくる矢田を放置して、試験会場に入る。



1年間、俺なりに頑張ってきたんだ。


そりゃ、途中で投げ出したりもしたけれど。

逃げたいと思ったことも、数え切れないほどあるけれど。



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