さよならの魔法



「あー、男が欲しい………。独り身は寂し過ぎる!」

「千夏ちゃんなら、すぐ出来るよ。だって、千夏ちゃんは可愛いもん!」

「ハル………、あんたはやっぱりいい子だー!」



「聞いてよー、この間さ、ケンカして彼氏と別れちゃった………。」

「千佳ー、ほんとにー!?あれ、この前まで、仲良く一緒にデートしてたじゃん。」

「千佳ちゃん、大丈夫?」


みんなでたくさん、恋の話もした。


私が、誰かに恋をすることはなかったけれど。

努力をしなかった訳ではなかった。


何人かの人と、付き合ってみたりもしたのだ。



でも、その度に実感することがある。

嫌でも、思い出してしまう。


心の片隅に残る、彼の面影。



くしゃくしゃっとした、少し癖のある髪の毛。

笑うと細くなる、優しい瞳。

そよ風みたいに、爽やかなその笑顔。


学ラン姿の彼が、記憶の中で笑う。

記憶の中でさえ、私ではない人に微笑みかける。



忘れたい。

忘れたいのに、まだ残ってる。


足りないんだ。

きっと、まだ足りないんだ。


あの魔法が足りないから、思い出してしまうだけ。

記憶を塗り潰す様に、魔法の言葉を口にする。





さよなら。

さよなら。


初恋なんて、いつかは忘れるものなのだ。

いつまでも思い出していても、仕方がないじゃないか。



さよなら。

さよなら。


そう唱える度に、胸がズキズキ痛む。



まるで、こう訴えているみたいだ。


好きだと。

まだ好きだよって。



胸が痛むけど、知らないフリをした。

気が付かないフリをして、好きでもない人と付き合った。


結局、誰とも長続きすることなんてなかった。



考えてみれば、当たり前だ。


好きだと思っても、相手からは永遠に気持ちを向けてもらえない。

愛する彼女は、自分のことを見てくれない。


長続きする訳がなかったのだ。



他の人を好きになれれば、忘れられると思っていたのに。

記憶から、彼が消えてくれると思っていたのに。



いつまで経っても、他の人を好きになれない自分がいた。



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