さよならの魔法
『成人式』
side・ユウキ







山あいにある、小さな町。

俺が生まれ育った、親しみのある町。


町には、たった1つだけれどホールがある。


俺が生まれるよりもずっと前に作られた、この町唯一の広い箱。

そこが、成人式の会場だった。









真新しい、黒のスーツ。

淡いブルーのストライプのシャツに、それに合わせて濃紺のネクタイを締める。


スーツなんて、滅多に着る機会はない。

最後に着たのは、大学の入学式だっただろうか。


朝一番に家の前まで迎えに来た矢田と、手を擦り合わせながら笑った。



「さむー………っ、本気で寒いな、今日!」

「紺野ー、お前なぁ………。俺の前で、寒い寒いって連呼すんなよ!余計に寒くなるだろうが!!」


そんなことを言われたって、寒いものは寒いのだ。

仕方がない。


反論してやりたいけれど、その為に口を開こうとすれば、あまりの寒さに口の中まで凍り付いてしまいそうだ。



真っ白な息が、空に向かって昇っていく。

灰色の空と同化して、消えていく。


冬の空は、いつもこの色だ。



ど田舎のホールに集まる、たくさんの人だかり。

ここに、こんなに人が集まっているのを見るのは初めてのことかもしれない。


普段は閑古鳥が鳴くばかりのホールも、今日だけはその装いを変えている。



ホールの前は、色とりどりの花が咲いている様だった。


燃える様な赤。

深みを感じさせる真紅。

落ち着いた色合いの紺。


他の人と被りたくない女の子は、夏の新緑みたいに鮮やかな緑をその身に纏う。



色とりどりの花の様に見えるのは、全て振袖を着た女の子だ。

上質そうな生地の至るところに、和柄の模様が刻み込まれている。


いつもとは違うであろうその出で立ちに、誰よりもはしゃぐ男。

俺の隣に、1名。




「おいおい、見ろよ!」

「見てるけど、どうかした?」

「どうかした?じゃねえよ!!」



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