さよならの魔法



「天宮、変わったよな。すっげー可愛くなった。」

「は?か、可愛い………!?」

「そう、可愛いよ。だからさ、もっと仲良くなりたいなーって………。」


冗談なのか。

本気なのか。


私を戸惑わせる言葉を残してくれた、松島くんだったけれど。



彼が、私を罵倒することはなかった。

邪険に扱うこともなかった。

煙たがられることもなかったのだ。


だから、私も笑えていたのかもしれない。

あの中で、みんなと同じ様に笑顔になれたのかもしれない。





(何だか、拍子抜け………しちゃったな。)


閉じていた目を開ければ、そこに広がるのは満点の星。

ビロードの絨毯の上に散りばめられた、小さなダイヤモンドの様な空。


闇の中に光る小さな無数の星に、目を奪われる。



空気が綺麗だからだろうか。

こんなに、星が美しく見えるのは。


東京だったら、こうは美しく見えないだろう。



濁った空。

霞む月。


今の私の居場所があるあの街は、どこか霞んで見える。

この町とは、何もかもが違う。



私を変えてくれた街。

今の私があるべき場所。


私のことを待っていてくれる人がいるあの街のことは好きだけど、私はこの生まれ育った小さな田舎町のことも大好きなんだ。

大切なのだ。



夜になれば、店は閉まってしまう。

24時間営業のコンビニもない。


とてもとても、小さな町。

閉鎖的で、顔見知りの人間ばかりの町。


都会の人から見ればちっぽけに思えるこの町だけど、私はこの町のことがそれでも好きなんだ。



久しぶりに帰ってきて、分かったの。

思ったの。


やっぱり、ここは私のふるさとなんだって。

捨てたつもりでいたけれど、どうしたって忘れることの出来ない場所なんだって。


もうこの町に私の居場所なんてないけれど、いつまで経っても、ここは私にとって大切な場所なんだって気が付いたんだ。


この町から引っ越さず、住み続けていたら気が付かなかったかもしれない。



< 411 / 499 >

この作品をシェア

pagetop