さよならの魔法
「天宮、変わったよな。すっげー可愛くなった。」
「は?か、可愛い………!?」
「そう、可愛いよ。だからさ、もっと仲良くなりたいなーって………。」
冗談なのか。
本気なのか。
私を戸惑わせる言葉を残してくれた、松島くんだったけれど。
彼が、私を罵倒することはなかった。
邪険に扱うこともなかった。
煙たがられることもなかったのだ。
だから、私も笑えていたのかもしれない。
あの中で、みんなと同じ様に笑顔になれたのかもしれない。
(何だか、拍子抜け………しちゃったな。)
閉じていた目を開ければ、そこに広がるのは満点の星。
ビロードの絨毯の上に散りばめられた、小さなダイヤモンドの様な空。
闇の中に光る小さな無数の星に、目を奪われる。
空気が綺麗だからだろうか。
こんなに、星が美しく見えるのは。
東京だったら、こうは美しく見えないだろう。
濁った空。
霞む月。
今の私の居場所があるあの街は、どこか霞んで見える。
この町とは、何もかもが違う。
私を変えてくれた街。
今の私があるべき場所。
私のことを待っていてくれる人がいるあの街のことは好きだけど、私はこの生まれ育った小さな田舎町のことも大好きなんだ。
大切なのだ。
夜になれば、店は閉まってしまう。
24時間営業のコンビニもない。
とてもとても、小さな町。
閉鎖的で、顔見知りの人間ばかりの町。
都会の人から見ればちっぽけに思えるこの町だけど、私はこの町のことがそれでも好きなんだ。
久しぶりに帰ってきて、分かったの。
思ったの。
やっぱり、ここは私のふるさとなんだって。
捨てたつもりでいたけれど、どうしたって忘れることの出来ない場所なんだって。
もうこの町に私の居場所なんてないけれど、いつまで経っても、ここは私にとって大切な場所なんだって気が付いたんだ。
この町から引っ越さず、住み続けていたら気が付かなかったかもしれない。