さよならの魔法
いつもならば気にならないかもしれないことが、今は余計に気になる。
気にも留めないことが、今だけはやけに気にかかる。
不愉快だ。
その笑い声も、バカみたいな笑顔も。
そんな時だった。
「こーんーのーっ!」
俺の名前を呼ぶ、高い声。
沈んでいた空気を吹き飛ばすかの様な声は、よく知る人のもの。
増渕の声。
同じクラスになって、仲良くなった女の子の声だ。
「増渕?」
顔を上げれば、そこにいるのは増渕。
増渕が、この状況にはそぐわない笑顔を浮かべて立っている。
俺の前にちょこんと立つ増渕が、俺に問う。
「紺野、何してるの?」
「何って………。」
その問いに、言葉を失った。
多分、この教室にいる人間は、みんな同じはず。
俺と同じであるはずだ。
見てる。
天宮と、磯崎を。
目の前で繰り広げられている、残酷な行為を。
みんな、同じなんだ。
見てるだけなんだ。
俺だって、そう。
助けたいのに、助けてあげられなくて。
手を差し伸べたいのに、その手が前に出なくて。
ただ、見ているだけ。
どんなに同情していても、思っているだけではダメだ。
思っているだけでは、天宮のことを助けてあげられない。
行動しないのなら、この教室にいるみんなと同じなのに。
そう思った瞬間、胸がズキンと痛んだ。
ああ、なんて無力なんだろう。
なんて、勇気がないのだろう。
俺は。
俺は。
自分を責めるしか出来なくて、つい同意を求める様に増渕に聞こうとした。
「なあ、増渕。お前は………」
どう思ってる?
この状況を。
同じクラスで公然と行われている、虚しい行為を。
何とも思わないの?
そう聞こうとした瞬間、増渕が先に口を開く。