Limit−リミット−



暑い日差しの昼下がり。



そう、今日みたいな日だった。



僕はまだ小学3年生くらいでその日学校で返却された0点のテストを隠しに、巴奏池へ来ていた。



巴奏池はめったに人も来ないし何にせよ涼しい。



このころの僕にとって巴奏池は、少し変わったことがあればすぐ気付く自分ちの庭のような場所であった。



そうして池のほとりを歩いてテストの隠し場所を探していた。



と、「ん?なんだありゃ」



水と陸のギリギリの境目で小さな黒い物体がもがいているのが見えた。



走ってかけよってみると、季節外れの蛍だった。



その頃の幼く純粋な心を持っていた僕は瞬発的に蛍を優しくすくいあげ、きれいな花が咲いているところに戻してやった。



僕はそのまま池のほとりに戻ろうと立ち上がると、その蛍はお礼を言うかのようにじっと僕の方を向いていた。



僕はそんな非現実的なことが嬉しくて、蛍の目の前にしゃがんで話し出す。



「ねぇほたるぅ?僕の名前は凉ちゃんって名前なんだよっ。ママはいっつも僕のことそう呼ぶんだよ。きみには名前はあるの?女の子?男の子?」



もちろん蛍はしゃべれない。
でも――…



「あぁ〜きみはほたるって名前なのか。女の子だね?だって小さいもんっ。」



と勝手に自分で決める。






それから僕ばほたる゙と名付けられた蛍と日がくれるまで語り続けた。



そして、



「もう帰らなきゃママに叱られる…。でもほたるとはもっとお話したい…。そうだ!約束しよっ?僕たちが大きくなったらケッコンするって。ほたるは霧島ほたるになるんだよっ。そして一緒に暮らすからずっとお話していられる。いいでしょ?」



そー言って僕はほたるに微笑み家路を急いだ。



存在を忘れられた0点のテストを手に握ったまま。






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