・*不器用な2人*・(2)
屋上から教室へと戻る際。

「風野先輩」

背後から肩を叩かれて、私は慌てて振り返った。

「芳野君。先輩はやめてよ。同学年でしょ」

私が肩を竦めて言うと、芳野君は一瞬表情を固めた。

しまった……と思ったものの、謝るのも失礼かと思い、私は無神経な笑顔を浮かべてしまう。

「普通に今まで通り接してよ。友達じゃん」

私が視線を泳がせながらそう言うと、芳野君はおかしそうにお腹を抱えて笑った。

「別に留年なんて気にしてないよ。後輩女子でハーレム作れると思うとちょっと得した感じあるし」

ちっとも変わらない明るいテンションでそう言うと、芳野君は2年の色をした上履きへと視線を落とす。

昨年度同じクラスだった芳野君は、明るく人当たりもよく、とにかくいい人だった。

女の子が好きらしく、あちこちの女子に声をかけてはクラスを盛り上げる、そんなムードメーカーだった。

「バスケ部はあと1年続けるの?」

「うん。そこも得したような感じだよね。マネージャー可愛い子入って来たし、毎日楽しいよマジで」

もう少し話をしたかったけれど、始業式が終わり帰りのHRが始まるところだった。

「また会ったら声掛けて。学年違うけど今年もよろしくね」

芳野君は私の顔を覗き込んで人懐っこく笑うと、階段を降りて行った。

「あれだよ、風野先輩。超嫌な感じ」

潜めた声が背後から聞こえてきたのは、そのすぐ後だった。

「美人だからって男子に囲まれてるんでしょ。

野球部の男子全員と寝たって話マジなのかな」

「あれって絶対化粧してるよね。スッピンとか絶対嘘だよね。

それかもう整形?」

ハッキリと聞き取れた言葉に、私は頬が熱くなった。

そっと振り返ると、2年の上履きを履いた女子たちが「げ」と声を上げて逃げて行った。

嫌な感じ……そう思った。

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