・*不器用な2人*・(2)
ピーっというホイッスルの後に、「2年生、10分休憩」という声が響いた。

館内のあちこちで練習をしていた2年生たちは隅の方へと移動し、設置された簡易テーブルの上から自分たちの水筒を取っていく。

1番最後に水筒を手に取ったのが城島君で、彼は入口付近に座る。

他の部員たちと随分と離れた場所に座っていたから、つい気になってしまった。

水筒をゆっくりと傾けて水を飲んでいる彼に、いっ君が近付いて行くのが見えた。

片手を軽く上げて、いっ君は中腰になる。

「お疲れさん」

そんな明るい声が、館内に響いた。

そして、城島君が顔を上げ、水筒から口を離そうとするほんの一瞬時。

その間にいっ君は城島君の後頭部を掴むと、彼の持っていた水筒を大きく傾けた。

飲みきれなかった水を顔に浴びた城島君が、盛大に咽始めるのを見て、私は慌ててフェンスから身を乗り出した。

それでも私に気付いた部員は1人もおらず、あちこちから疎らな拍手と歓声が起こった。

気管に入った水を吐き出すように何度も咳き込む城島君を、いっ君はしばらく見下ろしていたものの、やがてその頭へ横殴りをする。

「馬鹿はまともに水も飲めないのかよ」

またわざとらしく大声でそう言うと、彼はサッサと2年生たちの集団へと戻って行った。

始終を見ていた浦和君や赤坂君たちが笑いながらいっ君へハイタッチを求め、彼は片手だけでそれに応じていた。

何度も激しくせき込んでいた城島君は、ホイッスルの音が鳴ると素早く立ち上がり、手を上げている3年生の元へ、他の部員たちと一緒に駆け寄って行った。

休憩時間の10分間に起こった出来事の意味も理解できないまま、私はまたベンチへと腰をおろした。

自分が見ていた光景が一体何だったのか、その単純な問題に答えを出す勇気がなかったのだ。
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