悪魔的に双子。
真昼の画策
夜、風呂を洗おうと中に入ると、ナメクジがいた。


生きてるのか生きてないのかわからないくらい、動かない。


わたしは無言でバスルームを離れ、自分の部屋へ戻ろうと階段へ向かった。


あのぶよぶよした生き物は、わたしには刺激が強すぎる。


階段を上がる途中で、自分の部屋からでてきたらしい真昼に出くわした。


「青……風呂ってもう誰か洗ってる?」


「……いや」


無表情で尋ねてきた真昼にわたしもまた無表情で返した。


ナメクジのせいで今は表情筋が麻痺している。


わたしは真昼の横を通り過ぎようとしたが、なぜかぱっと腕を掴まれて、立ち止まらざるを得なくなった。


「…なに?」


「何で泣いてたの」


真昼は唐突に、いつになく真剣な顔でわたしに尋ねた。


「あ、見てたの」


「部活のやつら、みんな見てたよ」


「ふぅん」


顔から火がでそうな恥ずかしさが再びこみ上げてきて、わたしは階段を駆け上がろうとしたが、真昼はさらに強くわたしの手をひいてそれを止めた。


「で?何で泣いてたの」


色素の薄い瞳が、わたしの目をじっと見据えて返事を待っている。


わたしはふぅっと息をはいて、ぎこちない笑顔を返した。


「何でもないよ。ちょっと先輩たちと言い合いになっちゃっただけ。」


真昼の顔になんとも言えない表情が浮かぶ。


しかし、次の瞬間には、日頃から見慣れている、人を食ったような笑みが戻っていた。


「あっ、そう。」


瞳に意地の悪い光がきらめく。


「頼りになるお兄さんに泣きついて一件落着、ですか。」


有志はおっそろしく頼りない。


それが分かっててのこの言葉だ。


「ま、真昼には関係のないことだもん」


わたしはムッとしてそっぽを向きながら答えた。


「……そうですね、おねぇさん」


からかいまじりにそう言うと、真昼はわたしの手を離して、一階へ降りていった。


わたしは自分の部屋に向かいながら、さっきまで真昼に掴まれていたところに触れた。


真昼だとは思えないほどの強い力だった。


少しじんじんした。







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