悪魔的に双子。
わたしは先輩と一緒にいられる放課後の時間を手放したくない。


だから、さっさと帰ってきて勉強しなさい、はい、分かりました、とうなづくことは出来ない。


でも、こういう時のお父さんは、しつこい。


適当に誤魔化させてくれないのだ。


助けを求めるように有志の方を見ると、困った顔で首をすくめられた。


わたしはお父さんの方を上目遣いに見ながら言った。


「あのー、お父さん、早く帰ってくるってのは無理かな」


「どうしてだ?委員会にでも入っているのか」


「入ってないです。」


「用がないんだったら、いつまでも学校にいる意味がないだろう。」


中2の娘の放課後事情なんてある程度ほっといてくれたらいいのに、お父さんの顔がますます真剣になる。


わたしは白くなった頭を一生懸命回転させながら、ようやく言葉をしぼりだした。


「その……ね、先輩に勉強を教えてもらってるの」


「先輩?」


「うん。」


鈍い頭でとっさに思いついたわりにはなかなか良い言い訳な気がする。


「一年の頃から仲の良い先輩がいてね、開いてる教室で教えてもらってるの」


あながち嘘でもない。


ホントにたまにだけど、凛太朗先輩に勉強教えてもらうことはあるから。


お父さんはいまいち納得してない顔で言った。


「お前の先輩っていうと三年生だから受験生だろう?その子は自分の勉強はいいのか。」


「だ、誰かがそばにいる方がはかどるらしいよ。」


「ふーん、まぁ、勉強してるなら仕方ないか。」


お父さんはしぶしぶと言った感じでうなづいて、ふと笑顔を見せた。


「無料で家庭教師してもらえるんだったら、なかなかに得な話だな。」


「……うん、でしょ」


ちくっ、と心が痛まないでもない。







ごはんを食べ終わって、居間のテレビをつけて見ていると、真昼が隣に座ってきた。


珍しいこともあるもんだな、と横を見ると、真昼が顔を寄せてくる。


間近にある顔にドギマギしながら、


「……何」


と尋ねた。


「お父さんさぁ」


真昼が楽しそうに唇を歪めて笑った。


「その‘‘先輩’’のこと絶対女の先輩だと思ってるよね」


「……」


「その先輩って、あの一年生みたいなリンタロ先輩でしょ?親切な家庭教師が男だって知ったら、お父さんあんまり喜ばないね」


わたしはまじまじと真昼の目を覗きこんだ。


怖いくらいに、綺麗な目だ。


「何が言いたいの」


「……べっつに」


それだけ言い残すと、真昼はさっさと自分の部屋が何処かへひっこんでしまった。









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