スイート・プロポーズ
 お昼終わりの午後、円花は自分の中にある勇気をかき集めて、夏目と話してみようと決めた。

「あの、部長……今夜」

「夏目部長、今夜飲みに行きませんか? 俺、奢りますよ?」

 勇気をかき集めたのに、倉本によって邪魔された。
 こんなにもこの男を殴りたいと思ったのは、これが3度目だ。

「悪いが、先約がある」

「女ですか?」

 その瞬間、広報部の全員が聞き耳を立てる。

「残念だが、相手は男だ」

「そうですか……。んじゃ、また今度誘いますね」

 残念そうに、倉本は自分のデスクへ戻る。
 倉本が去ると、今度は円花の番だ。
 だが、既に目的は潰えた。倉本のせいで、聞く前に答えが分かってしまったじゃないか。
 これじゃあ、折角かき集めた勇気が無駄になった。

「小宮はどうした? 今夜、と言っていたか?」

「それは…………朝! 朝渡された書類ですが、今夜中に仕上げるので、明日の朝1番にチェックをお願いします」

「あぁ、分かった。けど、急ぎじゃない。残業する必要はないぞ」

 円花は逃げるようにデスクへ戻ると、深い深いため息をつく。
 しばらくは、自分の中の勇気は集まりそうにない。
 それを言い訳にして、今日は宣言通り、残業することにしよう。

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