スイート・プロポーズ
「……専務に言われました。部長は、アメリカに行った方がいい、って」

「史誓が? ……そうか」

 余計なことをーーそう言いたそうな顔をしていた。
 それには気づかなかったフリをして、円花は話を続ける。

「部長は、どう思ってますか? アメリカに行きたいですか?」

「……行くと決まれば、迷いはない。けど、今は行きたいとは思っていない」

 やっぱり、夏目の気持ちは決まっていた。

「わ、私のため、ですか?」

 だとしたら、申し訳ない気持ちになる。出世のチャンスを、自分が台無しにしているみたいで。
 けれど、夏目は静かに首を振る。

「違うよ。俺のためだ」

「え……でも」

「俺が、君の側にいたいから」

 それが本心なのかは、円花には分からない。
 でも、夏目が優しいのは分かる。

「……専務は、部長を信頼してます」

「あいつの右腕になれる人材は、この先も現れる可能性がある。でもこの先、君と繋がっていられる可能性は、どうだろう」

 人の気持ちを繋いでおくことは、難しい。愛していた人を、殺したい程に憎む日が来る事もある。
 そんな人の心変わりを、責めることなんて出来はしない。
 それでも、人の心を繋いでおきたいと願うのだ。

「…………私は、あの時みたいに怒ってはいないんです。部長が、別れる事を前提に告白したわけじゃない、って知ったので」

 自分の気持ちは分からないが、落ち着いている。冷静に考えられるはず。
 だから、言わなきゃ。自分の気持ちを。

「私は……その、多分……部長はアメリカへ行くべきだと思うんですっ」

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