スイート・プロポーズ
つい、文庫本を口元付近まで引き上げてしまう。
「今日はグロスしてないんですね」
「ッ!」
「桜色で綺麗だったのにぃ」
(余計な事を・・・・・・)
チラッと夏目を見れば、口角が上がり、口元は弧を描いていた。
夏目のことだ。
グロスをつけて来なかった理由くらい、梨乃の余計な一言で感づいただろう。
(新しいの買おう・・・・・・)
文庫本に意識を集中させ、円花は昨夜のことを頭から追い出した。
―――・・・・・・。
休日の夜、円花はクリーニングに出して返ってきたジャケットを見つめ、考えていた。
「直接渡さなきゃかしら、やっぱり」
頼んじゃいないが、夏目は好意で貸してくれた・・・・・・はず。