水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


- 現実 -



ゆっくりと瞼を開く。


視界に映るのは……
あの日と同じ景色。




私……泣いてたの?





瞳から溢れだした滴を
掌で拭うと、
ゆっくりと視線だけでその場所を確認する。
 



……病院かぁ……。




闇に慣れた視界から読み取った情報から
この場所が病院であることを知る。




確か……施設を出て、
坂道を車椅子でくだってた……。





あの瞬間が今も
リアルに思い出されるのに
私……まだここに居る。





……まだ生きてるんだ……。





トラックが視界に映ってたから、
今度こそラクに慣れるのかもって
思ったのに……。
 




生を自覚した私にとっては、
この世界は
苦痛以外の何物でもなくて……。






そう……とても孤独で寂しい世界。


差し伸べられる手も温もりも
全てが偽善に見えて、
嘘で塗り固められた
そんな世界が苦痛で堪らなかった。



施設から通い続けた小学校でも、
中学校でも……同情が続いた。



教師の目が行き届いたところでは、
私の介助を我先にと実践して、
自己アピール。


教師の目が届かないところでは、
陰口。

悪口。




通信簿には


『妃彩ちゃんはもっと心を開き
 コミュニケーションの取り方を
 勉強しましょう。

 時には、クラスメイトに感謝の気持ちを
 伝えましょう』


なんて書かれる始末。


学校の先生なんて、
所詮何も知らない偽善者なんだ。


偽善者だから、
そんな酷いことが
言えるんだって思った。




そして……施設でも、学校でも
人を信じることが出来なくなった私は
心を閉ざした。
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