水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 




溜息をつきながら私は部屋の中に、
ゆっくりと車椅子の車輪をまわして入ると
スタッフは、一礼して外から鍵をかけた。



カチャリと外から回された鍵音が、
私と社会を遮断する大きな壁の様に思えた。



会いたかった氷雨。


多久馬総合病院で入院していた時間は、
私にとって、優しいと思えた夢の時間。



だけど……私の現実は今の時間。




車椅子の車輪をまわして、
硝子窓の方へと近づいてくる。


透明硝子ではないので、外の世界を眺めることは出来なかったけど
外から降り注ぐ光は、とても強い陽射しで眩しさすら思えた。




多久馬総合病院を退院して、
坂の上の施設に戻って、
この部屋で生活をし始めて数日が過ぎた。



この部屋にスタッフが近づいてくるのは、
ご飯の時間のみ。

その一日三度の食事の時間を覗けば、
誰も立ち入ることがない空間。



夏休みの交通事故以来、
この施設に迷惑をかけた私に
まともに話してくれるスタッフは居なくなってた。

狭い部屋で出来ることは、
ベッドとトイレの往復くらい。


お風呂すら、
誰かの介助がないと入れない現実。






あの時……本当に、
パパやママのところへ行けていたら……





そんな思いが何度も何度も芽生えていく。


だけど今のこの部屋に、
自らの命を絶てそうなものは何もない。

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