水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

8.逢えない時間 -氷雨-





妃彩と出逢った
高校生活最後の夏休みが終わった。


9月。


二学期が始まって、大学受験を受けるヤツラは
次第に神経を張りつめさせていく。


そんな学校の中で、
オレは一人、浮いている気がした。


目指す未来を描くことが出来ないオレには、
二学期が始まった今も、いつもと変わらない。


学校に何気なく通って、
バイトでバイクのチューニング費用や
ガソリン代を稼ぐ。


だけどそのバイト代の目的に、
妃彩の為に何かしてやりたいと言う
新たな目的は付け足された。



携帯電話を持ってないんじゃ、
気軽に連絡するなんて出来ない。



だったら、せめて持たせてやりたいなー、
持ってて欲しいなーっとか。




街を歩いて、
アイツが喜びそうなものを見かけたら
近づいて、
アイツが嬉しそうに笑う姿を思い浮かべる。




オレの生活の中に、
いつの間にかスーっと
入り込んできたアイツの存在。





「氷雨っ、何時まで寝てるの?

 ほらっ、毎日夜遅くまで遊んでるから
 朝起きられないのよ。

 時雨なんて、
 由貴君や飛翔君ととっくに出掛けて行ったわよ。

 もう、しっかりしなさいよ。

 氷雨、貴方だって受験生なのよ。
 将来の分岐点に立ってるの。

 もっと真剣に向き合いなさい」



部屋にノックもなしに入り込んできて
朝っぱらから説教なんて勘弁してくれよ。




「はいはいっ」




適当に2つ返事をしながら
逃げるように、ベッドから起きだして
学校の制服に袖を通す。


ペタンコの鞄を抱えて部屋を出て
一階へと向かった。



「親父は?」



リビングを覗いてキョロキョロするオレに
母さんは溜息を吐き出して告げた。

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