水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



その時間が終わった後、
凄く満たされた優しさと、何時もより軽く感じる体と心。




不思議な体験の時間が過ぎると、
何時の間にか、歌姫は教会から姿を消して
私は座っていた椅子から、ゆっくりと立ち上がった。




「お疲れ様。
 倍音ヒーリングの初体験はどうだった?

 えっと……君の名前は?」

「氷室由貴」

「有難う。
 氷室君だったね。

 また良かったらここに来て。
 疲れた時とかは特に。

 僕も今は大学受験前でピリピリしてるから、
 ここで時折、リセットしてるんだ。

 考えすぎると空回りしてしまうから」


大学受験の言葉に、
私自身も現実に引き戻される。


「大学受験、君は何処を目指すの?」

「僕は、千尋と一緒にお養父さん【おとうさん】の
 この病院を助けたいから。
 神前悧羅の医大を目指してる」


少年が告げた受験先は、時雨たちが追いかけている未来と同じで
学院側に届けている私自身の第一希望の進路。


「氷室君も今は大学受験?」

「私も同じ。
 親友と一緒に神前悧羅の医学部を目指してる。

 だけど……何のために医学部を目指しているのか、
 正直わからなくて、いまいち乗り切れていない感じがするんだ」


私を知らない存在だから?


この場所で、心の解放とやらをしてしまった直後だから?

理由はわからなかったけど、
目の前の勇人と名乗った少年には、
時雨や飛翔に言えない心の中を話すことが出来た。


「ねぇ、氷室君。
 なりたいって思う夢に、深い理由なんて必要なのかな?

 理由なんて後から探してもいんじゃないかな?
 
 あっ、僕今から養父の病院のボランティア手伝わないとだから。
 それじゃ。

 また気が向いたら何時でも来て。

 Rizママがこの場所で歌うのは、
 月曜日の10時頃と、水曜日の夕方16時頃。後は、土曜日の13時頃からかな」

「Rizママって?」

「僕の育ての母。
 僕は鷹宮院長夫妻の養子だから。

 生みの親と区別するために、Rizママって呼んでる。
 Rizママは、さっきの歌姫だよ。

 グラスハープを持ちながら、倍音を歌い続けるこの教会の歌姫」


そう言うと、勇人は手を振って奥の扉から
最初に入ってきた時と同じように、患者さんたちを誘導しながら
奥へと消えていった。


私もその場所から逆側の公園へと続くドアを開けて、
急いでバイト先へと滑り込む。


余裕を持って出てきていたのに、
バイト時間、5分前。


そのまま4時間ほど、接客と陳列と掃除の時間を
続けて21時頃に仕事から解放される。

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