水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「有政、後頼むわ。
 バイト終わったら、集会に顔出す」


そう言うとドアを開けて、オレはそのままペタンコの鞄を持って
校門から学校を後にした。


向かうのは八月の事故以来、
順番に整備しながらなおしているオレの相棒。

それようのパーツをまわして貰ったから
先輩と連絡して、なおして貰う。

何時までも、
有政や優からバイクを借りるわけにはいかない。


このバイクは、
先代の朔良さんから受け継いだ紅蓮の象徴。


影狼とやりあったときも、
優のバイクって言うのもあって、マジになり切れなかった。


携帯で、朔良の側近をされてた市春【いちはる】さんに電話を入れて
市春さんのトラックと合流すると、
オレは助手席に乗せて貰って自宅前の倉庫から相棒をトラックの荷台に乗せた。


市春さんの店につくと、速攻作業に集中する。


言われるままに、チューニングしていくバイク。
吹きこまれていく命。




「氷雨、朔良にきいた。
 コイツ事故った時にかばった女、気になってんだって?」

「すいません。
 市春さんの耳にも入ってたんですね」

「俺と朔良の耳だけだよ。今んとこ。
 ちと、朔良に頼まれたから調べてた」

「調べる?」

「えっと……春宮妃彩だったか?
 彼女が居る、施設について何点かヤバそうな問題があってな」

「やばそう?」

「高嶋が噛んでるかもしれないって噂があってな」

「高嶋って、あの暴力団の?」



そう言ったオレに、市春さんは小さく頷いた。



「高嶋っていやぁ、九紋の氷見【ひさみ】とドンパチ騒がしいだろ。
 朔良も世話になってるの、氷見だしな。

 実家の桜ノ宮やりながら、祖父さんの機嫌取りつつ
 氷見の親父に気に入られてるだろ。

 ったく、良くやるぜ。
 同じ、親父の血が流れてるはずだから、
 おふくろの血の差かよ。

 この現実」


そんな話をしながらも、市春さんは世間話をしながら
あっという間に、バイクの修理を次々とやり終えて
オレは新しいバイクにまたがって、エンジンをふかせる。


馬力のある心地よい振動が伝わってきて、
そのまま軽く、市春さんの店周辺を流して帰る。



「どうだ?氷雨」

「最高ッス。
 前より馬力強くなった分、
 乗りこなすのにもう少し慣れが必要かもしれませんけど。

 これで喧嘩売られても、大丈夫っすね」

「影狼?」

「そうっす。
 この間もダチが絡まれて、ひと騒動起こしたところで」

「まっ、氷雨も暴走するなよ」

「とりあえず覚えときます。
 んじゃ、バイトあるんで」



昼頃から始めた修理も、
何時の間にか日がおちた後。

久しぶりの相棒を高揚させながら、
バイト先へのスタンドで21時頃まで2時間
動きどおしで働きおわると、そのままエスカルゴへとバイクを走らせた。



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