水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



「退院、決まったの。
 明日なんだって。

 今度、氷川さんの紹介で
 桜ノ宮サナトリウムってところで暮らすんだって。

 今朝、資料ですって持ってきてくれたんだけど
 見て。

 私、こんなところで生活できるんだって」



嬉しくなって、
思わずパンフレットを氷雨君の前で広げていく。




「良かったな」



そう言いながら、
氷雨君はちょっと、不満そうに唇を噛みしめてた。




次の日の朝、九月の終わり。


あの大きな車で迎えに来てくれた
朔良さん。


その車に乗り込んで連れられてきたのは、
資料にのっていた、あの建物。





重厚な門がゆっくりと開いて、
その奥に続く道を車はゆっくりと走っていく。



建物前、ゆっくりと停まる車。




車の周辺には、真っ黒なスーツを身にまとった
お兄さんたちがズラーっと並んでいる。



その先頭の人が、ゆっくりと近づいてきて
ドアを静かに開いた。





氷川さんが車を降りると、
ドアを開けたお兄さんは、
車椅子を素早く開いて、その上に
私を車から抱き上げて座らせる。



膝にかけられるひざ掛け。





キョトンとする私に、氷川さんはただ微笑む。



「お帰りなさいませ。

 本日より春宮さまのお世話を仰せつかりました
 今井と申します。

 朔良様、お部屋の支度は整っております」



そう告げた今井さんに車椅子を押してもらいながら、
案内された私の部屋だと言う場所。




案内された部屋は、淡いピンクのカーテンが飾られて
レースがひらひらと揺れている。


出窓がとても可愛かった。


中央の丸いテーブルには、
可愛らしい花が生けられている。


ベッドの隣には、車椅子でも利用しやすい高さの本棚。

何かをするときに便利な机。
机の上には、お父さんとお母さんの写真。


何もかもが私の為に用意されているのが
伝わってきた。




「氷川さん……」

「気に入って貰えたかな?
 身の回りの介護は、この今井が担当する。

 何か不自由なことがあると、すべて今井を頼るといいよ」



そう言いながら、
私の向かい側のソファへと腰をおろす氷川さん。


その時、ノックする音と共に
柔らかいトーンの女性の声が聴こえた。



「ごきげんよう。
 お兄様、突然の連絡どうなさいました?」


顔を出したその人は、
どこかの学校の制服を身に纏っていた。

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