恋の病院

「はぁー・・・」
結局学校の屋上。
「サボっちゃった・・・」
だって黒板見えないんだもん。
空を見上げる。
「憎らしいなぁー」
昔から星を見たことはない。
黄色く光る月だけ。
最近はそれさえも見えない。


ガサ・・・ッ



「誰っ!?」
顔がよく見えない・・・
ただ、男だということは分かった。
「おまえ・・・」
聞き覚えのない声・・・
「誰よ、あなた・・・」
「見えてないな」
「っ!?」
なに、コイツ。
「人の顔も判断できないのによく誰なんて聞けるな」
「み、見えてるわよ・・・」
図星をさされ、嘘をつく。
「嘘だな」
「名前」
「は?」
「あなた、名前は?」
とりあえず、話をそらす。
「ヒロタカ」
「ひろ・・・?」
聞き返す。
「耳まで悪いのか?大空と書いて、ヒロタカ」
「聞こえてます」
大空のいう名に聞き覚えがあった。
一つ上の先輩。
「あなた、お医者様の息子さんでしょ?」
「名前で呼べ。教えた意味がない」
むかつく奴・・・
「じゃあ、訂正。大空さん」
「そうだ。だが、俺はあいにく医者じゃない」
ぼやけた彼の顔が近づく。
「な・・・っ・・・」
「ここまでくれば見えるか?」
「はい・・・」
顔と顔の間は30㎝ほど。
こんなに近くでないと見えない。
「俺の父が言っていた」
「え?」
「治らない、と」
ズキ・・・ン・・・
「分かって・・・います・・・」
亜弥は俯く。
「失明するのが怖いか?」
馬鹿にしたような声。
「あたりまえじゃないですか!誰だって目が見えなくなるって言われたら、怖くなりますっ!!」
怒って顔を上げると大空は笑った。
「やっぱりそうか」
「あの・・・」
「何だ?」
「みんなには言わないで下さい」
「何をだ?」
「私が失明するってこと・・・」
すると、彼はフッと笑った。
「心配するな。言わない」
「有り難うございます」
亜弥はニッコリ笑った。
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