金曜日の彼女【完】
そのまま彼は私をジッと見ている。

「あ、あの…?」

「――…あ、ゴメン…琴葉ね。俺は竹内 龍太。龍太って呼んでいいから。ヨロシクな」

「あ、うん……よろしく」

一瞬――…ほんの一瞬だけど、彼の表情が歪んだ気がした。

だけどホントにそれは一瞬で、すぐにいつもの顔に戻っていた。

それから何人かが図書室に来たので黙々と仕事をこなしていった。



空がオレンジ色に染まり始め、もう図書室に来る人もいなくなってきた頃。

「…さて、そろそろ終わろうか」

「そうだね」

片づけをして2人で図書室を出た。




「琴葉」

「ふぇえ…!?」

いきなり名前を呼ばれて、変な声を出してしまった。

「クッ、なんだ?その返事」

クックッと笑いを噛み殺す彼。

「えぇ!?…いや、だっていきなりだったから…な、なに?」

「あー…外、暗くなってきたし送る」

「え…大丈夫だよ?駅近いし…」

いや、ホントは送ってほしいけど…ってだったらなんで断ってるのよ!私ってば。

「遠慮しない!さっ、行こ!」

そう言うと私の手を取って歩き出した。

――…えっ…えっ!?…手、手を…繋いでる!?


パニックになりつつ、繋がれた右手を見つめながら2人で薄暗くなった校舎をあとにした。


< 20 / 359 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop