金曜日の彼女【完】

さよなら

走って走って、ただひたすら走って、気がついたら龍太のバイト先の店の前に立っていた。

あれから何時間経ったんだろうか。


龍太がまだここにいるかどうかもわからないのに。

だけど――…会いたかった。

沖本君に抱きしめられたこと、告白されたこと、キス――されたこと。

全部、龍太に会って忘れたかった。


しばらく立っていると、店の中から声が聞こえてきた。

愛しい人の声はすぐにわかった。

―――…まだいる。


するとポリバケツを抱えた龍太が店の裏口から出てくるのが見えた。

龍太――…

そう呼びたくても、声がうまく出せない。

不意に顔を上げた龍太。

「…琴…葉?」

気づいてくれた。

「りゅ…龍太!」

名前を呼びながら、彼の胸に飛び込んだ。

ただ――…抱きしめてほしくて…

「ちょっ…おい!琴葉?いきなりなんだ…って…お前…泣いて…る?」

龍太の戸惑う声が聞こえる。

「琴葉…」

龍太は観念したかのように深い溜め息を吐くと、そっと私の背中に腕を回す。

そっと抱きしめてくれる、その温もりで少しずつ、落ち着くのがわかる―――…


「―――…琴葉…お前なんで…ここにいるんだ?」

思わずビクッと跳ねる体。

「…ぐ、偶然、見かけて…」

「偶然?…じゃあ…なんで泣いてる?…なにがあった?」

その声は恐ろしいほどに低く、冷たい―――…


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