モノクロ
 

理由はわからないけど何となく紀村さんの顔を見たくなって目線をあげると、ぱちっと真正面から目が合った。


「っ」

「ん?」


目に映るのは目尻にシワを寄せてふわっと笑った紀村さん。

その笑顔に吸い込まれそうだと思った。

心臓の鼓動がどんどん速くなるのを感じる。

身体が熱くなって……胸がきゅっと締め付けられる。

何これ? この感覚は……何?

その感覚の正体は掴めなかったけど、紀村さんの言葉に頷いたら何かが変わる気がして。

……変わりたいと思って。

私はゆっくりと頷いていた。


「……私、頑張ってみます」

「うん。頑張れ。応援するよ」


包み込んでくれるような優しい笑顔が浮かんだ瞬間、まるで桜の花びらがふわっと舞い上がるように、目の前に淡いピンク色が見えた気がした。

力が湧いてくる感覚がした。




──何年も過ごしてきたモノクロの日々。

それが変わり始めたのは、この小さなひとつの出逢いからだった。

私の世界に、色が、つき始めた。

 
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