モノクロ
 

「何でそんな顔すんの。え、やっぱりもしかして俺が寝てるところをむにゃむにゃしたやましさが……」

「そんなことしてませんってばっ!」

「くくっ、わかってるよ」

「もう!」


完全にからかわれてるだけだってわかっているけど、先輩が心から笑ってくれてる。

それだけでもう十分だ。

それに……先輩が優しく撫でてくれるのがすごく嬉しいから。

私も先輩の笑顔につられて、笑いが零れた。

先輩がきょろりと部屋を見回し、口を開く。


「にしても、想像通りの部屋だな。漫画、めっちゃある」

「へ? あぁっ、すみません! 散らかってて」

「どこが? ちゃんと片付いてるじゃん。いや、想像通りだけど想像通りじゃないか。俺、部屋に本置くのって好きじゃないし落ち着かないんだけど、この部屋は何かすっごい落ち着く」

「! そ、それは、お誉めに預かりまして、ありがとうございます……」

「いーえ?」


特に何の工夫もおしゃれもしていない部屋なのに、「落ち着く」なんて言ってもらえるなんて、嬉しくて頬が緩む。

感動していると、不意に先輩の目線が斜め上を向いた。


「ん? げっ、何だよ、あれは!」

「はいっ?」


先輩の言葉に、先輩が指差す方へ目線を向ける。

先輩がビシッと指差した先にあるのは写真スタンド。

そこにはこの前撮ったばかりの梢ちゃんと私のツーショット写真が飾られてある。

何とも嬉しいことに、梢ちゃんから一緒に写真を撮りたいと言ってきてくれたのだ。

嬉しさのあまり写真に写る私の表情はゆるゆる過ぎるけど、梢ちゃんの満面の笑みがかわいいから何の問題もない。

もちろん、帰る途中、写真屋さんで即プリントアウトしてウハウハで部屋に飾ったというわけだ。

さすが先輩。梢ちゃんセンサーは侮れない。


「うふふふ~、いいでしょ~! この前会った時に撮ったものなんです!」


私は嬉々として立ち上がって棚に置いていた写真スタンドを手に取り、先輩の目の前に差し出す。


「ほらっ! 梢ちゃん、すっごくかわいいでしょ!?」

「……さきこ。ほんっとお前ってやつは……」

「へっ?」

「ずりぃ! この写真は没収!」

「えっ、ちょっ、先輩!?」


先輩は写真スタンドから器用にすっと写真を抜き取り、Yシャツの胸ポケットに仕舞ってしまう。


「やだー! 返してくださいよっ!」

「どうせ、データはあるんだろ? 1枚くらいいいだろ!?」

「た、確かにそうですけど……!」


その通りだけど、かわいい梢ちゃんだけじゃなくて真ん丸な顔の私まで、先輩の胸ポケットに……!

 
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